このページのポイント
- 軟骨の減少で生じる変形性股関節症は、臼蓋形成不全等の基礎疾患に起因する二次性が大半を占める疾患である。
- 前股関節症から末期まで4段階で進行し、自覚症状が薄い初期段階からの早期発見・進行抑制が重要。
- 生活指導や運動などの保存療法のほか、生活への支障や年齢に応じた手術・再生医療といった多様な選択肢がある。
変形性股関節症とは
股関節は、人間の体の中でも重要な部位の一つです。人が立ったり歩いたりするときには、股関節が体重を支える力になります。歩いているときで体重の約3倍、立ち上がるときは6~7倍、さらに低い位置でしゃがんだ状態から立ち上がるとなんと10倍もの圧力が股関節へかかると言われています。
そんな股関節の動きをスムーズに保っているのが、クッションの役割をしている軟骨です。変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減り、骨同士がぶつかり合うことで、痛みや動きづらさを引き起こす病気です。


特に40歳以上の女性に多く見られる病気で、日本では約300〜400万人が罹患していると推定されています。有病率は女性で2.0〜7%と言われています。
変形性股関節症には、明らかな基礎疾患がない一次性と、臼蓋形成不全などの基礎疾患に続発する二次性があります。日本では、臼蓋形成不全など股関節の形態異常を背景とした二次性変形性股関節症が多いことが知られています。
変形性股関節症の主な症状は、股関節や太もも、膝などの痛みやこわばりです。痛みは歩行や階段の昇降などで悪化することが多く、重度になると安静時にも痛みが出るようになります。
症状によって4つの段階が設定されており、一番深刻な状態まで変形性股関節症が進行すると、安静時でも痛みが生じるようになってしまいます。そのころには、歩行困難や寝返りができないなどの障害が生じるとともに、日常生活に大きな支障をきたして、生活の質(QOL)も低下します。
例えば、立ち続けることが辛くなるため、お料理や洗濯といった日常の家事にまで影響が及ぶでしょう。動きづらくなることで、運動不足や肥満も誘発しかねません。
治療法には、保存療法と手術療法、他の方法という3種類があり、保存療法で十分な改善が得られない場合には、病期や年齢、股関節の形態、症状などに応じて、骨切り術や人工股関節置換術などの手術療法を検討します。
変形性股関節症の原因と診断方法
変形性股関節症には一次性と二次性があり、原因がわからないものを一次性と呼びます。二次性の原因としては、先天性と後天性、2つの原因が考えられます。
先天性と後天性、2つの原因
<先天性>
股関節症全体のうち約8割(*1)は、子どもの頃の病気や発育障害が原因です。
生まれつき股関節の形や位置に問題があったり、赤ちゃんの頃に先天性股関節脱臼や先天性股関節形成不全、発育性寛骨臼形成不全といった疾患により、変形性股関節症の発病リスクを高めていることがあります。
赤ちゃんの時期に股関節を脱臼するのは、1000人に1〜3人と決して多くなく、稀なことです。
しかし、抱き方やおむつの付け方、寝ているときの向き癖などにより足の動きをさまたげてしまうことで気づかない間に脱臼がおきます。


たとえばスリングや横抱っこは、股関節が閉じて伸びてしまうため、赤ちゃんの股関節にとっては負担がかかる状態です。臼蓋形成不全と呼ばれる状態になると、大人になってから変形性股関節症が発症する可能性が高まるのです。(*2)
また、遺伝の影響についても指摘されています(*3)。親戚や兄弟姉妹、両親など血縁者に変形性股関節症の方がいる場合は、発症の可能性が高くなります。
これらの先天的な原因は、予防することが難しいですが、早期に発見して治療することで、進行を遅らせることができます。定期的に股関節の検査を受けることや、適度な運動や体重管理をすることが大切です。
<後天的>
後天的な要因としては、加齢や体重増加、運動不足などの生活習慣によって発症することがあります。
近年では高齢化に伴い、特に原因のハッキリとしない、加齢に伴う変形性股関節症も増えています。また、重いものを運ぶような作業や立ち仕事、アスリートレベルのスポーツなどにより、誘発されることもあります。(*3)
検査や診断方法
まず問診や視診で症状を確認します。
問診では、家族やご自身の病歴や仕事の内容、スポーツの経験のほか、原因につながりそうな怪我をしてこなかったかなどが確認されます。また、どこが痛いのかということを聞かれます。
次に触診や可動域検査で股関節の動きや圧痛点を調べます。該当する症状が見られるときには、レントゲンで股関節の形態や関節裂隙(かんせつれつげき)の狭小化、骨の変化などを確認します。
症状の段階により、レントゲンでみえる様子も異なります。最初の段階では自覚症状がなくとも、骨の変形が見られます。症状が進むと関節の隙間が狭くなっていき、骨の突起が見られるようになります。さらに症状が悪化すると、骨同士の接触や軟骨の消失が確認できるようになるのです。(*4)
そのほかCTやMRIも検査に用いられます。
(*1) 日本整形外科学会「変形性股関節症」
(*2) 日本小児整形外科学会「先天性股関節脱臼予防パンフレット」
(*3) 変形性股関節症診療ガイドライン2016
(*4) 日本臨床整形外科学会「変形性股関節症」
佐野 圭 医師
変形性股関節症では、股関節そのものではなく、太ももや膝の痛みを訴えて受診される患者さんもいらっしゃいます。また、レントゲン上の変形の程度と症状の強さが必ずしも一致するわけではありません。画像所見だけでなく、痛みの部位や日常生活で困っている動作などを含めて総合的に診断することが大切です。
4段階に分けられる変形性股関節症の症状
変形性股関節症の病期は、主にレントゲン所見に基づいて、前股関節症、初期、進行期、末期の4段階に分類されます。一番軽い症状は「前股関節症」と呼ばれ、続いて初期、進行期、末期へと段階が進んでいきます。(*4)
(*4) 日本臨床整形外科学会「変形性股関節症」


段階1:前股関節症
病気の段階1は前股関節症と呼ばれます。前股関節症では、レントゲン上、関節裂隙(かんせつれつげき)の明らかな狭小化は認めないものの、臼蓋形成不全など股関節の形態異常がみられます。必要に応じてMRIなどの追加検査を行うこともあります。
この段階ではまだ自覚症状はほとんどありません。股関節が疲れやすいなと感じることがありますが、筋肉疲労や筋肉痛と捉えて放置してしまう人がほとんどです。(*5)
ただし、股関節以外の部分に痛みや違和感を感じる人もいるようです。(*6)
この段階では鎮痛剤などの薬物療法、患部を温める温熱療法、股関節への負担を減らす生活指導や理学療法が行われます。(*7)
(*5) 宮崎医学会誌 30:51~60,2006 変形性股関節症の診断と治療
(*6) 日関外誌,VIII,(2),227~238,1989. 前股関節症の病態 と治療
(*7) 理学療法ハンドブック シリーズ17 変形性股関節症
段階2:初期股関節症
段階2は、初期股関節症と呼ばれます。前股関節症よりも、軟骨が部分的にすり減っている段階です。骨の隙間が狭くなり始めており、軽度の骨硬化(骨が硬くなる現象)がみられます(*8)。
(*8)特定非営利活動法人標準医療情報センター「変形性股関節症」
この段階では股関節に痛みやこわばりを感じたり、立ち上がるときや歩き始めに痛みを感じるかも知れません。しかし、歩いているうちに痛みが軽減することもあります。
この段階でも、前股関節症と同じく、鎮痛剤などの薬物療法、患部を温める温熱療法、股関節への負担を減らす生活指導や理学療法が行われます。
具体的には、ご自身で股関節が痛いときの動きを行わないように注意したり、体重が重い場合は適正体重まで減らすなどを行うほか、無理のない範囲での運動療法により、病気の進行を遅らせるといったことが期待できます。
和式のお手洗いやお布団から洋式へ変えることも、股関節への負担を減らす良い方法となります。また、歩くときに杖を利用することで、股関節への負担を減らすこともできます。
段階3:進行期股関節症
段階3は進行期股関節症と呼ばれます。軟骨が広範囲にすり減ってしまい、関節の隙間が初期に比べてさらに狭くなっていきます。ざらざらとした骨同士がすりあわせられる状態になるので、痛みも出てきます。またレントゲンでみると、骨棘(こつきょく)や骨のう胞も見られるようになります。
この段階まで進行すると、股関節の痛みを強く感じるようになります(*9)。関節の動きが悪くなるため、こわばりが強くなり、歩行や階段の昇降などで悪化します。


立ち座りや階段などで手すりが必要になったり、足の爪が切りにくくなったり、靴下がはきにくいといった症状もでてくる段階です。正座もきつくなるので、かがむ姿勢になるような和式のお手洗いを使うことも難しくなっていくでしょう。
(*9) 公益財団法人日本股関節研究振興財団「第3章股関節の病気の種類と内容(前編)」
この段階では、これまでの薬物療法や温熱療法、生活指導などのほかに、痛みの度合いによっては手術療法も検討範囲に入ってきます。
症状や年齢、股関節の形態、関節症の進行度などを総合的に評価し、関節温存が可能な場合には骨切り術、関節症が進行している場合には人工股関節置換術などが検討されます。
強い痛みが原因で運動不足や筋肉不足となる危険性もあります。医師の指導のもと、股関節へ負担をかけないように気をつけつつ、運動して筋肉の維持にも努めていきます。
段階4:末期股関節症
さらに進行すると、関節の軟骨がほぼ消滅してしまいます。軟骨下骨が露出した状態で、骨と骨が直接ぶつかりあうために強い痛みを感じるのが、4つめの段階である末期股関節症です。
痛みのために、日常生活にも問題が生じます。歩行時だけでなく、安静時でも痛みが続くようになる状況です。昼だけでなく、夜寝るときにまで痛みに悩まされるようになります。加えて、関節の変形も目立つようになり、膝頭が外側を向いてしまいます。まっすぐ立つことができないので、歩くことが難しくなりますし、左右の足の長さも変わってきます。
これまで同様、薬物療法や生活指導などの保存療法を行いますが、痛みや関節の変形が進行し、日常生活に大きな支障がある場合には、人工股関節置換術が検討されます。人工股関節置換術は、痛みを軽減し、歩行能力や日常生活動作を改善する効果が期待できる治療法です。
近年では人工股関節の材質や手術技術が進歩し、長期成績も大きく向上しています。2026年に『The Lancet』に報告された大規模研究では、現代的な人工股関節の30年生存率は約92%と推定されています(*10)。そのため、手術適応は年齢だけで決めるのではなく、痛みの程度や日常生活への影響、関節の状態、患者さんの活動性などを総合的に判断することが重要です。
また、近年では筋肉や周囲組織へのダメージをできるだけ抑えることを目的とした低侵襲手術も普及しています。筋肉と筋肉の間から股関節へ進入するDirect Anterior Approach(DAA:直接前方進入法)などでは、術後早期の疼痛軽減や機能回復が期待できます。手術方法にはそれぞれ特徴があるため、患者さんの状態に応じて適切な方法を選択します。
(*10) Pentland V, et al. Survivorship of modern total hip replacement to 30 years: systematic review, meta-analysis, and extrapolation of global joint registry data. Lancet. 2026;407:855–866.
変形性股関節症 症状チェックリスト
自分の股関節の状態は問題ないでしょうか。チェックリストで確認してみましょう。
- 動き始めに、足の付け根が痛む
- 股関節の可動域が狭くなった気がする
- 足の爪を切りづらくなった
- 和式トイレが使いづらいと感じるようになった
- 太もも、お尻、膝などがだるかったり痛みを感じたりする
- 足の筋力が低下した気がする
- 立ちっぱなしが以前に比べて辛い
- 股関節にこわばりを感じる
- 階段などで手すりを使うようになった
- 家族や親戚に変形性股関節症の人がいる
これらの症状が続く場合や、股関節の痛み・動かしにくさによって日常生活に支障を感じる場合には、整形外科を受診して相談しましょう。
変形性股関節症の治療方法
変形性股関節症の治療には、大きく分けて保存療法と手術療法があります。症状の程度や関節の変形、年齢、日常生活への影響などを考慮して、患者さん一人ひとりに適した治療方法を選択します。保存療法には、日常生活での工夫、薬物療法、運動療法などがあります。
変形性股関節症における保存療法
保存療法には、日常生活への注意、薬物療法、温熱療法、運動療法があります。
<日常生活への注意>
股関節への負担を軽減し、痛みや症状をコントロールするためにも、日常生活で股関節に過度な負担をかけない工夫が大切です。
・生活様式
座ったり立ったりを繰り返す和式の生活は、股関節への負担が大きいため、洋式へと変更することが望ましいとされています。和式の敷き布団よりも、高さのあるベッドへ。和式のトイレよりも椅子に座るスタイルの洋式トイレへ。また、床に座る生活から、椅子を用いる生活に変えるほうが、より股関節への負担を減らせるでしょう。
・服装
ヒールの高い靴や厚底靴は、股関節への負担が増えるので、クッション性の高い底を持ったスニーカーなどフラットで歩きやすい靴を使用しましょう。


また、痛みを感じている人は、サポートとして杖を使うのもおすすめです。杖は、痛い方の足の反対側に持ちます。なぜなら、人は歩くとき、骨盤が傾かないように、外転筋という筋肉、お尻の部分で、股関節を外側に動かしています。この筋肉を使うと、股関節にも体重の3倍もの大きな力がかかります。しかし、杖を使うことによって、外転筋にかかる力を減らし、股関節にかかる力も少なくなるのです(*8)。
・体重管理
歩くとき、股関節には体重の3倍もの力がかかります。そのため、重すぎる体重は、股関節にとって大きな負担となってしまいます。痛みを悪化させないためにも適正体重をキープする必要があるのです。


<薬物療法>
痛みが強い場合には、症状を和らげるために非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの消炎鎮痛薬を使用することがあります。薬物療法は痛みを軽減するための治療であり、変形した関節そのものを元に戻す治療ではありません。また、薬剤によっては長期間の使用により消化管障害や腎機能障害などの副作用が生じる可能性があるため、患者さんの状態に応じて適切に使用することが大切です。
<温熱療法>
患部を温めて血行を良くし、痛みをやわらげる方法です。こちらも薬物療法の消炎鎮痛剤と同じく、対症療法となり、根本的な解決ではありません。
<運動療法>
股関節周囲の筋力を維持・強化したり、柔軟性を保ったりするために、ストレッチや筋力トレーニングなどの運動療法を行います。ただし、痛みを我慢して無理に運動すると症状が悪化することもあるため、医師や理学療法士の指導のもと、無理のない範囲で継続することが大切です。
自宅でできるストレッチ
1. お風呂の中で前もも伸ばし
かかとを床につけます。腰とひざをしっかりと曲げて、5〜10秒キープします。


2. 股関節前の筋肉伸ばし
背筋を伸ばして、腰に反りができないようにして、膝をついた片脚の骨盤を前にずらして5〜10秒キープします。反対側も行いましょう。不安定なときは椅子などにつかまって行います。


3. 仰向けでお尻の筋肉伸ばし
仰向けに寝ます。胸に近づけるように、片足を曲げて5〜10秒キープ。息を吐きながら、足を引き上げるようにして、お尻の筋肉が伸びるのを感じます。反対側も行いましょう。

4. ふくらはぎの筋肉伸ばし
前脚を曲げて立ち、後ろ脚を大きく後ろに伸ばします。前脚の膝に手を置いてバランスをとり、息を吐きながら後ろ脚のふくらはぎのストレッチを感じます。この姿勢を5〜10秒間キープしたら、ゆっくりと元に戻します。反対側も行いましょう。


5. もも内側の筋肉伸ばし
足を左右に広げて、膝をまっすぐに伸ばすようにして両手を前方に置きます。息を吐きながら上体をゆっくり前に倒し、太ももの内側が伸びるのを感じながら5〜10秒キープします。


自宅でできる筋トレ
1. 太ももの筋トレ(脚上げ運動)
仰向けになり、片方の足は曲げて、もう一方の足はまっすぐに伸ばします。伸ばした足を床から離して上げます。

2. ふくらはぎの筋トレ
テーブルなどに手を置いて、腰幅ほどに足を開きます。息を吐きながら、ゆっくりとかかとを上げてつま先立ちになり2~3秒キープします。息を吸いながら、ゆっくりとかかとを下ろします。この動作を10回繰り返します。


3. おしりの筋トレ
両足を曲げて仰向けになります。お尻の筋肉を使って腰を持ち上げます。この姿勢を5~10秒キープしてからゆっくりと下ろします。


4. お尻の横の筋トレ
身体を横にして、下側の膝を曲げて床につけます。下側の手で身体を支えてバランスをとります。上側の足をまっすぐに伸ばして上に持ち上げます。この姿勢を5~10秒キープしてから、ゆっくりと足を下ろします。


5. 足全体の筋トレ
足を肩幅より少し開いて、足先を斜めに向けて立ちます。膝が足先より前に出ないように、お尻を後ろに引きながらしゃがみます。ゆっくりと5~6秒でしゃがみ、同じくらいの時間で元の姿勢に戻ります。


痛みが強くなる運動は無理に続けず、症状に応じて医師や理学療法士に相談しながら行いましょう。
自宅以外の運動療法
自宅以外の運動療法では、プールでのトレーニングがあります。水中歩行や水泳などは、浮力によって股関節への負担を軽減しながら運動できる方法のひとつです。ただし、泳法や動作によって痛みが生じる場合には無理に続けず、症状に応じて運動内容を調整しましょう。(*8)


佐野 圭 医師
変形性股関節症では、レントゲン上の変形があっても、必ずしもすぐに手術が必要になるわけではありません。痛みの程度や日常生活への影響に応じて、運動療法や薬物療法などの保存療法を組み合わせながら治療していくことが大切です。一方、保存療法を続けても生活に大きな支障がある場合には、手術も含めて治療方法を検討します。
変形性股関節症における手術療法とリハビリ
変形性股関節症では、痛みの程度や関節の変形、日常生活への影響、年齢や活動性などを総合的に評価して治療方法を選択します。保存療法を行っても十分な改善が得られず、痛みや動作の制限によって日常生活に大きな支障がある場合には、手術療法を検討します。手術を受けるかどうかは、個人の状況によって異なります。股関節痛の強さ、日常生活での困難さ、年齢、仕事の種類など、さまざまな要素を考慮して決めることが大切です。
変形性股関節症の手術には、自分の関節を残す方法と人工の関節に入れ替えるなどの方法があります。自分の関節を残す方法は関節温存手術(骨切り術)と呼ばれ、人工の関節に入れ替える方法は人工股関節全置換術と呼ばれます。ほかに、股関節鏡手術というのもあります。
股関節鏡手術
股関節鏡手術は、股関節周囲に小さな切開を加え、関節鏡を挿入して関節内を観察・治療する手術です。主に関節唇損傷や大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)などが治療対象となります。一方、変形性股関節症が進行している場合には十分な効果が期待しにくく、適応は限られます。特に臼蓋形成不全を伴う場合には、股関節鏡手術後に関節症が急速に進行する症例があるため、原則として股関節鏡手術単独の適応とはせず、慎重な判断が必要です。


骨切り術


骨切り術は、自分の股関節を残したまま骨盤や大腿骨の一部を切って向きを変え、股関節にかかる負担を分散させる手術です。特に臼蓋形成不全を背景とした比較的若い患者さんで、関節軟骨がある程度保たれている場合に検討されます。代表的な方法には寛骨臼回転骨切り術などがあり、年齢だけでなく、関節症の進行度や股関節の形態、活動性などを総合的に評価して適応を判断します。
人工股関節置換術


人工股関節全置換術(THA)は、傷んだ大腿骨頭と寛骨臼側の関節面を人工関節に置き換える手術です。痛みの軽減や歩行能力、日常生活動作の改善が期待でき、進行した変形性股関節症に対する代表的な手術療法です。
近年では人工股関節の材質や手術技術が進歩し、長期成績も大きく向上しています。そのため、年齢だけで手術適応を決めるのではなく、痛みの程度や日常生活への影響、関節の状態、患者さんの活動性などを総合的に判断することが重要です。
人工股関節の固定方法は、大きく分けてセメント固定とセメントレス固定があります。セメント固定は、骨セメントを用いて人工関節を骨に固定する方法です。一方、セメントレス固定は、人工関節を骨に直接固定し、その後、人工関節の表面に骨が形成されることで長期的な固定を得る方法です。大腿骨側と寛骨臼側で異なる固定方法を組み合わせることもあり、患者さんの骨の状態や骨質などに応じて適切な方法を選択します。
近年では、手術手技や周術期管理の進歩により、人工股関節置換術後の早期離床・早期歩行が一般的になっています。術後は患者さんの状態に応じて早期から立位や歩行、筋力訓練などのリハビリテーションを開始します。早期に身体を動かすことは、身体機能の回復だけでなく、深部静脈血栓症などの術後合併症を予防するうえでも重要です。
退院後も、日常生活や活動性に応じて適切な運動を継続することが大切です。人工股関節置換術によって、多くの患者さんで痛みの軽減や歩行能力、日常生活動作の改善が期待できます。一方で、脱臼、感染、骨折、血栓症などの合併症が生じる可能性もあるため、手術を受ける際には治療のメリットとリスクについて十分に理解することが大切です。
佐野 圭 医師
人工股関節置換術を検討するタイミングは、レントゲン上の変形だけで決まるものではありません。痛みのために歩くことや仕事、趣味など、患者さんが大切にしている日常生活に支障が出ているかどうかが重要です。現在は人工股関節の長期成績も向上しているため、年齢だけを理由に手術を先延ばしにするのではなく、一人ひとりに適したタイミングを相談することが大切だと考えています。
変形性股関節症における他の治療法
また、これらの方法以外にも、最近は再生医療も注目されています。


近年、変形性股関節症に対する治療のひとつとして、多血小板血漿(PRP)療法が行われることがあります。PRP療法は、患者さん自身の血液を採取し、遠心分離によって血小板を多く含む成分を抽出して、股関節内に注射する治療です。
PRPにはさまざまな成長因子が含まれており、炎症を抑えたり、痛みや関節機能を改善したりする効果が期待されています。一方で、変形した関節や失われた軟骨を元の状態に戻すことが確立された治療ではなく、効果には個人差があります。また、変形性股関節症に対するPRP療法の適応や長期的な効果については、現在も研究が続けられています。
なお、変形性股関節症に対するPRP療法は健康保険が適用されない自由診療であり、治療を検討する場合には、期待できる効果や費用などについて医師から十分な説明を受けることが大切です。
変形性股関節症の術後
人工股関節置換術後は、筋力や歩行能力を回復させるため、患者さんの状態に応じて適切な運動やリハビリテーションを継続することが大切です。退院後は徐々に日常生活や運動へ復帰していきますが、過度な体重増加は人工股関節への負担となるため、適正な体重を維持することも重要です。
また、人工股関節置換術後には、脱臼、感染、人工関節周囲骨折などの合併症に注意する必要があります。脱臼しやすい姿勢や動作は手術方法によって異なるため、医師や理学療法士の指導に従いましょう。症状がなくても人工股関節の状態を確認するため、定期的に診察や画像検査を受けることも大切です。
佐野 圭 医師
変形性股関節症は、レントゲン上の変形の程度と痛みの強さが必ずしも一致するわけではなく、治療法も患者さん一人ひとりで異なります。痛みや動かしにくさによって日常生活に支障を感じるようになったら、我慢を続けるのではなく、一度整形外科で相談してみてください。保存療法から手術療法までさまざまな選択肢がありますので、ご自身の生活や希望に合った治療を一緒に考えていくことが大切です。

