症状・治療

肩関節(腱板断裂)

腱板断裂の症状・リハビリ・手術を専門医が解説

肩の痛みの原因として多く、手術を行うことも少なくない腱板断裂について、当院で肩関節を専門に診療している歌島が解説いたします。できる限り一般的な考え方をお伝えするように心がけておりますが、治療方針などは医師によって異なることもありますのでご了承ください。

目次

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そもそも腱板とは?

腱板断裂、つまり、腱板が切れたと説明を受けても、そもそもの腱板が何なのかっていうところから馴染みがないですよね。

いつも診察室で患者さんにご説明するのは「肩を安定して動かすために大切なインナーマッスルのスジ」という言葉です。一応、説明できている言葉なんですが、これだけですべて理解するのは難しいかと思います。限られた診察時間の中でひねり出した言葉ではありますが、ここではそういう制限はありませんので、わかりやすさ重視でお伝えします。

腱板の「腱」というのは筋肉が骨にくっつく前にスジっぽくなる部分を言います。イメージしやすいのはアキレス腱でしょうか。アキレス腱はふくらはぎの筋肉である腓腹筋とヒラメ筋が「かかと」の骨にくっつく前に合流してスジ張った部分を指します。

この構造に腱板も実は似ていて、腱板というのは「腱」に「板」と書くとおり、腱が板のように平べったくなっている部分を言います。

アキレス腱って、平べったいというより、むしろ細めのスジって感じがしますよね。それに対して、腱板は実は4つの筋肉が合流して腱になるので、平べったくなるんです。

この4つの筋肉というのが肩のインナーマッスルと呼ばれる筋肉たちです。腱板を構成する筋肉なので腱板筋群と呼んだりもします。インナーマッスルというのは直訳したら内側の筋肉となりますが、つまり、身体の内側、深いところにある筋肉ということです。そして、深いところとはどこかと言えば、関節のすぐ近くということを表します。そして、関節のすぐ近くを走るということは、その筋肉がキュッと収縮すれば、関節は安定するっていうことになります。逆にアウターマッスルという筋肉は関節から離れた位置にありますから、アウターマッスルが収縮すると大きな力は発揮しますが、関節は不安定に動きます。

ですから、インナーマッスルが先にちゃんと収縮した状態でアウターマッスルが働くということが大切なんですね。特に肩関節はそもそも脱臼しやすい、不安定な関節ですから、このインナーマッスル、すなわち腱板を構成する筋肉たちの働きがとっても大切になります。

ちなみにこの4つのインナーマッスルは、前から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋という名前がついていて、それぞれ働きが少しずつ違っています。

腱板断裂の原因 -怪我した覚えがないのですが-

腱板についてご理解いただいた次は、腱板断裂というものについてですね。これは怪我でもあり、自然と加齢などの変化として起こってしまう病気のような側面もあります。

ご高齢の方は特にキッカケなどがなくても、肩の痛みの原因を調べたら腱板断裂だったというケースは多いですが、当然のことながら、肩に強い負荷がかかるような、転倒してしまったとか、転びそうになって何かにつかまった瞬間に肩に瞬間的な力がかかったとか、肩が脱臼してしまったというような怪我としての腱板断裂は全年齢に起こりえます。

腱板断裂(肩腱板断裂)とは?

さきほど、腱板とはそもそもなんなのか?ということについて解説しました。それは4つの筋肉のスジが合流して平べったくなっている部分ということでしたが、平べったくなっているということは、通常の腱よりも薄いということも言えます。ですから、切れやすいんですね。

ただ、平べったいので一気にブチッと全部切れるのではなくて、部分的に剥がれたり、部分的に穴が空くような切れ方をします。それも、スジと骨の間から切れていくので、骨からスジが剥がれていくような切れ方から始まります。

このように腱板は平べったい全体がすべて切れてしまう、骨から剥がれてしまうというケースはほとんどありません。特に大抵は小円筋という一番後ろの筋肉は切れずに残ります。ですから、腱板断裂でどこが切れるかという筋肉名で言えば、気にするのは肩甲下筋、棘上筋、棘下筋で十分です。しかし、これらの筋肉が合流してスジになったのが腱板ですから、結局、断裂した場所が何筋かと明確に区別するのが難しいケースもあります。

いずれにしてもこれらのインナーマッスルの先端のスジが切れてしまう腱板断裂で問題なのは、シンプルに切れてしまったが故の痛みと、インナーマッスルの働きが落ちて肩が安定的に動かしにくくなってしまうということです。これが後にお伝えする様々な症状に繋がっていきます。

腱板断裂と腱板損傷、完全断裂と部分断裂の違い

腱板断裂はスジと骨の間から切れていくので、骨からスジが剥がれていくような切れ方から始まるとお伝えしました。剥がれ方には3種類の部分断裂と呼ばれる状態があります。

その3種類の部分断裂と完全断裂を理解するには、肩という関節と腱板の関係をもう少し深掘りしておく必要があります。

肩に限らず、関節というのは外の世界とは完全に隔離されたスペースになっています。もちろん、皮膚が人の身体の境界線ですが、その奥にある皮下脂肪、筋肉もまだ関節にとっては関節の外の世界です。これを、そのまんまですが関節外と言います。それに対して、骨の軟骨と軟骨が向き合ってスムーズに動いてくれる関節は関節包という薄い膜に囲まれています。これがそのまんま関節内と表現されます。この関節内と関節外を隔てる膜が関節包になるわけですが、これは特に五十肩で重要になる膜です。これは後にまた出てきます。

この関節包と腱板の関係で言うと、一部では関節包と腱板はくっついちゃっています。むしろ、腱板の一部が関節包と言ってもいい部分もあります。それは言い換えると、肩の場合は腱板が関節の中と外を隔てる膜の役割もしていると言えます。そして、腱板が断裂して、関節の中と外が繋がってしまった状態、まさに穴が空いてしまった状態が完全断裂です。つまり、完全断裂は腱板がすべて切れてしまったということではないということですね。先ほどもお伝えしたとおり、小円筋が大抵は残るので、腱板がすべて完全に切れてしまうなんてことは滅多にありません。完全断裂は一部ですが完全に穴が空いてしまったというのが近い表現です。

では、部分断裂はどうかと言うと、腱板は一部剥がれているが、関節の中と外は繋がっていない段階です。ちょっと剥がれてしまった状態という表現が近いと思います。

その部分断裂のうち、関節の中の方から剥がれてしまうのを関節包面断裂と言い、関節の外の方から剥がれてしまうのを滑液包面断裂と言い、その間を腱内断裂と言います。これが部分断裂の3種類ということになります。

また、腱板断裂と腱板損傷、つまり断裂と損傷の言葉の違いですが、厳密には違いはないと考えています。なにせ、部分断裂ですら、断裂という言葉を使うくらいですから、それより軽症を損傷と言うなら、それは損傷ではないのではないか?という感じになってしまいます。ただ、やはり用語のイメージとしては断裂の方が損傷より重症感、切れてしまった感はあるかと思います。でも、逆に言うと、その程度ですから、

例えば、腱板損傷ですねと言われた時に、それは部分断裂ですか、完全断裂ですか?と聞いてみるのも一つの手かなと思います。

腱板断裂の症状 -五十肩との違い-

この腱板断裂の症状についてお伝えします。さきほど、インナーマッスルの先端のスジが切れてしまう腱板断裂で問題なのは、シンプルに切れてしまったが故の痛みと、インナーマッスルの働きが落ちて肩が安定的に動かしにくくなってしまうことだとお伝えしました。

その結果、起こってくる症状は腱板断裂部分の痛みです。これは、腱板の位置からして、肩の前や外側に感じやすいです。さらにはインナーマッスルの働きである肩を安定的に動かすということができなくなれば、肩を動かす時の痛みに繋がります。ひどくなれば、肩が挙がらない状態になってしまいます。ただ、外側の筋肉、つまりアウターマッスルには特に問題がないので、意外と肩はよく動くというケースも多いです。

典型的なのはインナーマッスルの働きが重要な肩の回旋運動での痛み。腕を捻るようなときの痛みですね。ドアノブを回したり、着替えをするときなんかもかなり腕を捻りますね。あとは、腕を遠くに伸ばす動きも肩の安定性が要求されるので痛みが出やすいです。よく患者さんがおっしゃるのが、車に乗っていて駐車券を腕を伸ばして取るときに痛いという症状です。

また、腱板断裂の症状は波があるというのも特徴です。切れているんだから常に痛いかと言えば、そうでもないんです。典型的には何らかのキッカケで腱板断裂が起こってしまえば、そこから1−2ヶ月は強めの痛みが走り、それが徐々に落ち着いてきます。しかし、後に述べるように多くの腱板断裂は自然修復されにくいので、完全に症状がなくなりきらず、痛みが少なかったり、多かったり、動きが改善されたり、また動かしにくくなったり、という症状の波がある人が多いです。

では、これらの症状が、俗に言う五十肩とはどう違うのか?ということも、お伝えしたいポイントです。なぜなら、五十肩と思いきや腱板断裂だったというケースや、腱板断裂が心配で受診されたけど、五十肩だったというケースがかなり多いからなんですね。

先に結論から申しますと、症状だけでは完全には区別できないんです。MRIやエコー検査などで腱板が切れてないかチェックしないと腱板断裂がないと言い切るのは難しいんですね。

ですが、典型的な症状は結構違います。さきほどお伝えしたとおり、腱板断裂は症状にかなり波があって、外側の筋肉がしっかりあるので肩を動かせることも意外と多い。腕を捻るとか、伸ばすというような動きで痛みが走りやすいというのが特徴でした。それに対して、五十肩というのは別の機会で詳しく解説しますが、肩関節を取り囲む関節包という膜、先ほど出てきましたね、この関節包に炎症が起こり、最終的にはぶ厚くなってしまう状態とされています。これを狭い意味の五十肩として、癒着性肩関節包炎と呼んでいます。

逆に広い意味での五十肩としては、肩関節周囲炎という肩の回りのどこかしらに炎症があるっていう病名もあります。この肩関節周囲炎となるとどこに炎症があるかで症状も変わっていって、典型的な症状っていうのもあまりないんですが、狭い意味での五十肩、癒着性肩関節包炎は肩を取り囲む関節包が炎症を起こすので、あらゆる方向に肩を動かしても痛い、そして、カタくなってしまえば、挙がらない、回らないという症状になります。このあらゆる方向というのが典型的で、腱板断裂と違いが出やすい部分です。ですから、イメージとは違うかもしれませんが、症状としては腱板断裂より五十肩の方が重症に見えてしまうことも少なくありません。

腱板断裂の夜間痛対策-お勧めの寝方-

腱板損傷に限らずではあるのですが、肩の痛みって夜に増すんですよね。特に横になって眠ろうとしたら痛いとか、途中で痛くなって起きてしまうために寝不足になってしまうことがあります。生活の質やパフォーマンスにも影響が出てきてしまうわけです。

そういう時の対処法として、まず基本は眠るときの環境、姿勢の問題から考えます。多いのは痛い方の肩を下にすると痛みが増す、また、痛い方の腕が下がっていると痛みが増すというケースです。ですから、オススメはクッション性が高く変に圧迫されないような柔らかめのクッションを痛いほうの腕の下に置いてみてください。そうすると痛い方を下に横向きに寝返りを打ちにくくなるのと、肩関節の姿勢として腕がちょっとお腹寄りに位置します。これは肩関節で言えば、軽く屈曲状態になります。この姿勢が肩にとっては楽な姿勢で、これをしないと、腕は重さで下に下がって背中側に位置して、肩関節としては伸展という姿勢になってしまいます。そうすると肩にとってはちょっと苦しい姿勢なので痛みが走りやすいということはわかっています。

それは例えば、肩の安静としては三角巾で吊ることがありますが、それって腕をお腹側におきますよね。逆に背中側に腕を持って吊るなんてことは絶対にしないですよね。そういうことです。

この腕の下に柔らかいクッションを置くのが基本として、しかし、肩の状態は腱板断裂の程度や位置などによっても変わるので、クッションを置く位置や枕など、環境の試行錯誤をすることをオススメしています。環境だけですべて解決するわけではないと思いますが、少しでも楽な環境を探ることは有益です。そういう意味では肩の温度というのも調節してみる価値がある環境です。炎症が強いときには温めすぎると痛みが増す可能性がありますが、逆に血の巡りが悪い時などは冷やすと逆効果になるので、この冷やすか温めるかということも試行錯誤が必要です。

さらに夜間痛に対する対応策としては眠る前の鎮痛剤の内服やそもそもの肩関節の炎症を抑えるために注射をするなども選択肢になり得ます。

腱板断裂を判定するテスト-セルフチェック-

ここまでお話ししてくると、いよいよ、自分は腱板断裂をしているかどうか?が気になってくると思います。最終的にはMRIかエコーなど画像検査で直接、腱板をチェックしない限りは切れているかどうかを判定はできません。ですから、気になれば受診をご検討いただきたいわけですが、腱板断裂を疑う時の診察テストというものはあります。

ここでは2種類お伝えします。

1種類目はドロップアームと呼ばれるもので、直訳すると腕を落とすテストということです。例えば右肩が痛いとします。その場合、左手で右手を持って、右腕を挙げていきます。120°くらい挙がった段階で左手を離したとき、腱板が大丈夫な人はそのまま右手は挙がった状態をキープして、自分の力でゆっくり下ろせます。でも、腱板断裂がある人はこのゆっくり下ろすということが難しいんですね。だから、離そうとすると痛くて怖いというような感じになります。ですから、急に完全に離さないで、痛かったらすぐに支えられるようにしながら左手を離してみてください。

次はJobeテストとかSpeedテストと呼ばれるようなテストをシンプルに考えたチェックです。腱板っていうのは腕を挙げた状態で負荷が強く、さらに捻るという動作でも重要な役割を発揮するので、腕を捻りながら挙げる力を入れると、力が入らないか痛いという症状が出やすいです。ですから、腕を前に90°、つまり前ならえの状態にして、腕を内側に捻った状態で挙げる力が入るか、今度は逆に外側に捻った状態で挙げる力が入るか?ということを試してみましょう。逆の手で上から押さえつけて、抵抗する形で力の入り具合、痛み具合をチェックしてみてください。

いずれも痛みがあったり、力が入らなければその時点でやめてください。やり過ぎて余計に傷めてしまってもいけませんので。

腱板断裂の重症度分類

腱板断裂について、先ほど、部分断裂についても解説いたしましたね。この部分断裂は重症度で言えば、軽症になるわけです。そして、部分断裂が重症化すると、完全断裂に移行します。その完全断裂も断裂した穴の大きさで、小さい順番に小断裂(断裂の幅が1cmまで)、中断裂(1-3cm)、大断裂(3-5cm、広範囲断裂(5cm以上)というように分類されています。

さらに穴の大きさだけではなくて、腱板そのものの強さ、逆の言い方をすれば脆さというものもありますし、腱板のもとの筋肉の柔らかさ、逆の言い方では硬さというものも関係してきます。腱板自体が強い方が良くて、その元の筋肉自体は柔らかい方が、手術したときにくっつきやすいと言えます。

これらはすべてMRI検査である程度、予測ができます。

例えば、小断裂の場合はたいてい軽症という判断になりますし、大断裂では重症なんですが、筋肉が柔らかくて、腱板も強いと判断すれば、関節鏡手術で十分に修復可能という判断をします。しかし、同じ大断裂でも筋肉の大半が脂肪に置き換わってカタくなってしまい、腱板自体も脆そうとなれば、なかなか修復が難しいかもしれないという判断になるわけです。

腱板断裂の検査 -エコー(超音波)やMRI、レントゲン-

腱板断裂を疑った時の検査についてご説明いたします。まず、肩が痛いというご相談の際に、最初に行うのはレントゲンです。レントゲンは腱板自体は写りませんが、腱板断裂を疑うべき骨の変化などは鮮明に写ります。また、軟骨のすり減り具合などもわかりますので、基本の検査として行っています。

そして、腱板自体を描出する検査として超音波検査を行うこともあれば、一番情報量が多く、腱板断裂なのか、断裂はせずに炎症を起こしているのか(五十肩含む)、などをしっかり鑑別できるMRIをお撮りするということも、よく行う検査になります。

逆にこれらの検査を何もしないとなれば、腱板断裂の有無を厳密に判別することは難しいと考えます。それどころか、画像検査にも限界はあって、関節鏡手術の際に最終判定することすらあります(判定するためだけに手術をするということはいたしません)。

腱板断裂のリハビリテーションの目的・方法

腱板断裂において、リハビリテーションはよく行われる治療ですが、その目的をしっかり理解して行うことはとても大切です。

まず腱板断裂と診断されて、手術をしない方向性の中でのリハビリテーションです。このケースでも主に2つの目的があって、一つは腱板断裂がまだ軽症で自然修復を期待しつつ行うリハビリテーションです。もう一つは腱板断裂の自然修復は期待できないけれども、何らかの理由で手術は難しい、手術は行わないという方針の中で行うリハビリです。 前者の自然修復を期待しつつ行う場合は、腱板断裂部に無理な負担をかけずに行っていくことになります。その場合のメインターゲットは肩甲骨です。なぜなら、肩甲骨の動きが良くなれば、腱板にかかる負担を減らすこともできるからなんですね。逆に言うと、肩甲骨の動きが悪いがゆえに肩関節という小さい関節だけで腕を動かさないといけなくて、腱板に負担がかかってしまうことがあるわけです。そこを改善しつつ、腱板が修復されてくれるのかどうかを判定していくという方法です。

次に後者の腱板断裂の自然修復は期待できない中でのリハビリとなると、先ほどの肩甲骨の動きを改善することに加え、残っている腱板部分を上手に使うということもトレーニングしていくことになります。

また、いずれの場合でも肩がカタくなっている、拘縮を起こしている場合は、可動域を拡げる、つまり、柔らかくしていく訓練も同時に行っていきます。これを関節可動域訓練と言います。

また、手術を行った場合は、手術後のリハビリテーションがとても大切になります。患者さんにお伝えするのは、手術半分、リハビリ半分というくらいの重要性だということです。手術だけして、リハビリをしなければ、おそらく、手術前よりも肩の痛みや動きは悪くなると思われます。そのくらいリハビリが大切だということです。

腱板断裂の手術後のリハビリテーションの目的はざっくりと2つの要素に分けられます。それは、肩関節の可動域を回復することと筋力を回復することがあります。つまり、肩を動かす幅を拡げていく、柔らかい肩にしていくことが1つめの要素。そして、修復した腱板の筋肉の筋力を回復することが2つめの要素になります。

それを達成するにはどんどん肩を動かしていけばいいわけですが、しかし、最初から動かしすぎればせっかく修復した腱板がまた傷んでしまうかもしれません。ですから、段階的に、ステップバイステップでリハビリの強度を強めていくわけです。具体的にはリハビリの強度が強くないものとして、肩甲骨の動きを良くすることや、肩を柔らかくするために力を抜いて可動域を拡げていく訓練から開始していきます。そして、腱板断裂部が修復されてくる時期として、手術後1ヶ月半以降に段階的にご自身の筋力を使って肩を動かしていく訓練が開始されていきます。これらのスケジュールは重症度によって変わってきます。

腱板断裂のストレッチ

腱板断裂においてストレッチは有効か?ということを聞かれることがあります。ストレッチというのは基本的には筋肉を伸ばすモノ(=ストレッチ)でありますが、腱板断裂で肩関節の可動域が狭くなっている場合には先ほどお伝えしたとおり、可動域訓練を行います。これがストレッチに近いです。実際は肩関節の可動域訓練で伸ばしているのは筋肉よりも深い部分の関節包と呼ばれる膜が中心になります。

腱板断裂のトレーニング・筋トレ

腱板断裂は肩のインナーマッスルのスジに起こるモノですから、手術で修復した後はこのインナーマッスルを強くしてくことが大切です。ですから、中心はインナーマッスルのトレーニング・筋トレということになります。

それに対して、アウターマッスルである三角筋や大胸筋など、一般的に筋トレで鍛える場所のトレーニングはインナーマッスルが十分強くなった段階で行うことが推奨されます。アウターマッスルを先に鍛えてしまうと、肩の動きが不安定になりやすくて、腱板の負担が強まってしまいます。それゆえ、トレーニング愛好者やアスリートが筋トレをやり過ぎて腱板を傷めてしまってご相談に来られることも少なくありません。

腱板断裂のテーピング

腱板断裂に対するテーピングについてですが、基本的にはあまり効果は期待できません。それはテーピングの目的の1つである筋肉のサポートという働きが腱板断裂に対しては十分に機能しないからなんですね。伸縮力があるテープを貼って、その伸縮力が筋肉に似た特性を持つために筋肉に沿って貼れば、その筋肉をサポートしてくれる。これがテーピングの1つの目的(もう一つは固定)になるわけです。しかし、テープを貼るのは当然皮膚の表面、身体で言えば、一番外側になるわけです。それに対して、腱板はインナーマッスルですから、身体の相当内側になります。ですから、インナーマッスルのサポートをするテーピングというのはテーピングの特性上、かなり難しく、結果としてはアウターマッスルのサポートになってしまいかねないということが言えます。

腱板断裂を手術せずに放置した場合 -手術の必要性-

まず腱板断裂は命に関わる病気ではありません。ですから、「手術をしないといけない」ということではないということは、常々お伝えしています。

とは言え、いささか極端な話かもしれません。命に関わると思って相談されているわけではないのは承知しつつも、それでも、医師から「手術が必要です」と一言言われれば、もうそれ以外の選択肢はないという感覚になってしまいがちな傾向は誰しもあるのではないかと思って、敢えて話している内容です。

その上で患者さんと一緒に方針を決めていくことになりますが、そこでまず知っておくべきは手術をしない場合に腱板断裂がどうなるか?ということです。

これは例えば、少し似た例として足のアキレス腱断裂を考えてみましょう。実はアキレス腱断裂は手術をしなくても、アキレス腱断裂部が近づく形で足首をギプス固定をする治療でくっつけることもできます。これと同様のことを肩の腱板にやろうとすると、肩をゼロポジションと呼ばれる、バンザイに近い状態で固定しないといけません。それも骨とスジがくっつくことを待たないといけないので何ヶ月もその状態です。これは現実的ではありません。肩のギプス固定というのはもう胸から腕、首近くまで巻かないといけません。

ですから、腱板断裂がくっつく可能性が高い治療は手術しかないというのが現状です。

ほんの少し剥がれた程度の部分断裂の場合は肩に無理な負荷をかけないようにして、断裂部がくっつくこともありますが、その比率も少ないのが現状で、完全断裂になると、自然修復されることはほぼ期待できないということが言われています。

1996年の森石らの報告では、MRIで腱板断裂部が高信号(白色)になっていたものは66%が断裂部の拡大を認め、34%が変わらずという結果で、断裂部が縮小したものは0%だったとのことです。また、MRIで腱板断裂部が中信号(灰色)で描出されたケース、これは腱板の部分断裂の中でもかなり軽症で線維が残っている状態と考えますが、このケースでは73%が不変、27%が縮小したとされています。

(森石丈二ほか:腱板断裂の自然経過 -MRIを用いて- 肩関節, 1996;20 : 1, 217–219)

また2002年の掘田らの報告では、腱板の部分損傷の中で滑液包面不全断裂において、50%が断裂部が拡大していて、断裂部が縮小し、自然治癒傾向は0%だったと報告しています。

(堀田知伸ほか:腱板滑液包面不全断裂の自然経過-MRIによる観察- 肩関節, 2002;26:2, 357–361)

それに対して、手術をした場合の腱板断裂の修復の可能性は、断裂の大きさにもよりますが、60-90%台になります(60%などの低い確率は、そもそも広範囲の断裂でリスクが大きな断裂に限ります)。

このように腱板断裂、つまり、腱板に空いた穴を塞ごうと考えたときには手術と手術をしないというケースでは大きな差があるわけです。

ですから、手術をしないということは場合によっては腱板断裂したままで、肩と付き合っていくということ、そして、その断裂が少しずつ拡大することも考えた上で付き合っていくことになります。

しかし、患者さんにとって一番大切なのは症状です。腱板断裂があっても痛みもなく、十分に肩が動かせるなら問題ないわけです。そして、事実、そういう状態の腱板断裂の患者さんもおられます。これを無症候性腱板断裂と言います。そして、完全な無症状ではないにしても、日常生活には困らないくらいの症状にとどまる方も含めれば、かなり多くの方が腱板断裂を抱えながら生活しているのが現状です。

そう考えると、「困ったら手術すれば良い」という考え方もあります。

ただ、その考え方も少し悩ましいのが、その「困ったら」という段階が大きな断裂ですでに修復が難しい段階で訪れることもあるってことなんです。そうなってしまったら、関節鏡手術で腱板断裂を修復するではなく、太ももの筋膜を移植したり、人工関節手術を考えないといけなくなります。その意味では、現段階での症状も手術をするかどうかの判断材料ですが、将来的な予測も手術するかどうかの大切な決め手になり得るということで、そこまでご説明しています。

ちなみに腕を自力ではほとんど挙げられない、神経麻痺を起こしてしまったかのように上がらないという状態を偽性肩麻痺と呼んでいます。これは腱板断裂が重症化している可能性を考える徴候です。ですから、「まだ肩は挙がるんだから」と言って、手術適応ではないと判断するのは、重症化のリスクがある選択だとも言えます。

腱板断裂の保存療法 -薬や注射など-

腱板断裂の多くは手術以外ではくっつけることは難しいことをお伝えしましたが、だからといって、薬を飲んでいただいたり注射をしないわけではありません。これらの治療は痛みとどう付き合っていくかという視点で行う治療になります。手術を予定している場合もそれまでの痛みを軽減させるために消炎鎮痛剤などを飲んでいただくことも多いですし、手術後はある一定期間は痛み止めが必須になります。

また、どうしても痛みが強くて困る場合に注射をすることもありますが、腱板断裂部にステロイドと呼ばれる強い炎症を抑える注射をすることは、あまりオススメしていません。なぜなら、ステロイドはその強い効果と引き替えに腱板断裂部分をより脆くしてしまうリスクがあるからなんです。五十肩などでは回数を限定して使うことも多いステロイドですが、腱板断裂ではできるだけステロイド注射を避けるようにしています。と言っても、医師によってはそこまでこのリスクを重視せずにステロイド注射を提案されることもあるかもしれませんし、効果は劣りますが、ヒアルロン酸注射を行うこともあります。

腱板断裂の手術方法 -関節鏡手術-

腱板断裂の手術法について解説します。まだ一部で比較的大きめの傷から直視下に手術をされているケースもありますが、現在は関節鏡という内視鏡による手術が主流になっています。

というのも、肩関節というのは比較的スペースが広くあり、内視鏡カメラを直接入れることで、隅々まで観察することができる関節です。通常、直視下に直接観察しながら手術を行う方が大きな傷をあけますから、よく見て手術ができるイメージがありますが、こと、肩関節鏡に関しては、関節鏡手術の方が遥かに幅広いエリアを細かく観察することができます。

そして、もちろん、肩関節鏡手術の方が傷が小さく済みますし、外側の筋肉(アウターマッスル)などを大きく裂く必要もありませんので、いわゆる「低侵襲」と言われる手術になります。そのため、手術後の痛みや回復の面でもメリットになります。

具体的には関節鏡という筒状の内視鏡を挿入するための1cm前後の手術創を数カ所(3-5カ所くらい)作り、様々な方向から観察、処置していきます。腱板断裂で腱板にできた穴からは骨が露出しています。この骨は本来、腱板が覆い被さって、くっついていた場所ですから、その骨に腱板を密着させることが手術の主な目的です。そのために腱板に強い糸や、やや幅広めの人工靱帯に分類される糸を通して、その糸を引っ張るようにして穴を塞ぎます。そして、その引っ張った状態で糸を骨の中に埋め込みます。この埋め込むときに使うのが、ネジとかビスという工具のような形状をしたアンカーと呼ばれるインプラントです。これは現在はPEEK(ピーク)という医療用プラスチック素材や骨に置き換わる素材が配合されたものになっていて、金属のインプラントが挿入されることは稀になってきています。

これらの糸やアンカーは後々に抜去することは基本的にありませんが、アンカーは骨に埋没するモノですし、糸も身体の表面から触れるような太いものではありませんので、今までも気になるので抜いてくださいと言われたことはありません。特に、できる限り腱板修復のための糸は結び目ができないように手術をしているので、以前から指摘されていた糸の結び目が肩の動きの邪魔をする(ノットインピンジメントと呼ばれます)リスクも回避できています。

手術時間についてですが、前後、手術の準備や麻酔をかける、覚ますという時間を除いた純粋な手術時間で言うと、小さめの腱板断裂であれば30分以内、中くらいから少し大きい断裂であれば1時間以内、とても大きな断裂であれば1.5時間くらいというのが平均です。手術時間はむやみに短ければいいというものではありませんが、同じ手術処置を行うのであれば、短い方がいいわけです。その結果、手術後の感染のリスクや腫れ具合、痛みなどを低減できます。ですから、可能な限り無駄を省き、必要な処置は丁寧にやることで、結果として手術時間はかなり短くなっています。

また、大きな断裂に対しては穴を塞ぐために腱板が大きく動いてくれないと塞げません。そのため、腱板の筋肉、特に大きく動きやすい棘下筋という筋肉を肩甲骨から剥がす処置を加えることがあります。この場合は肩甲骨がある背中に3-5cm程度の手術創ができます。

さらに大きな断裂に対する手術としては太ももの筋膜の移植や人工関節の手術があります。

腱板断裂の手術リスク(合併症)

どんな手術にもリスクがあります。一般的な手術リスクとしては手術創から化膿してしまう手術後細菌感染、肺炎や心不全、腎不全、脳梗塞などの臓器障害、麻酔薬のアレルギーや悪性高熱症という麻酔に関連したリスク、脚や腕に血栓を形成し肺などの血管が詰まってしまう血栓症などが特に注意したいものになります。しかし、腱板断裂の手術は低侵襲で出血量も多くない手術ですから、これらの一般的なリスクも他の多くの手術に比べて低いと考えられています。

腱板断裂特有の手術リスクとしては、腕を固定して手術をし、手術後も三角巾や装具などを使用する関係上、神経や血管を圧迫し手がむくんだり、手先のしびれなどがでることがあります。多くは軽症で手のグーパー運動を積極的に行うことにより軽快していきますが、時に神経障害として力が入りにくい、しびれが長引いてしまうということが稀にあります。その場合も少し時間はかかりますが、自然と軽快していくことがほとんどです。

腱板断裂部が再び断裂してしまう。再断裂ということもリスクになります。元来、現時点で腱板断裂がない方も、後々起こるリスクはゼロではありませんから、同様に再断裂のリスクもゼロにはなりません。ただ、小さい断裂であれば再断裂のリスクはゼロに近く、大きな断裂になると報告によりますが、10−40%と比較的高率に再断裂を起こします。しかし、再断裂=再手術ではありません。再断裂をしても、もともとの断裂よりも穴は縮小し、リハビリテーションの結果、肩の痛みや働きが改善していれば、そのままの状態で日常を過ごしていただくことができます。ただ、求める機能や残存した症状によっては再手術を相談させていただくこともあります。また、再断裂よりも遥かに稀ですが、骨が弱い患者さんの場合にアンカーが抜けてしまう可能性があります。この場合は肩の中に異物があることになりますので、再手術を考える必要があります。

他にもリスクはわずかな可能性のものも含めれば、多くのリスクがありますが、それらのリスクと手術で期待できる効果を天秤にかけて、期待できる効果の方が大きいと判断するときに手術が提案されると考えていただければと思います。

腱板断裂の手術後の症状改善見込み

「腱板断裂の手術をすれば100%元に戻りますか?」これもよくいただくご質問です。やはり、目指すは100%ですよね。それどころか、怪我や症状が出る前よりも強い肩を作って120%を目指していただくのも良いかと思います。そこは一緒に目指したいと思っています。ただ、現実としては、痛みが残ってしまったり、可動域も完全には元に戻らないというケースは出てきます。手術に限らずですが、100%の人が100%治る治療はないわけです。

しかし、手術をしなかった未来と手術をした未来で大きく異なる予測(手術した方が明らかに回復している)があるからこそ手術が選択肢に挙がるというのが一般的な考え方です。

腱板断裂の手術後:装具の必要性

腱板断裂の手術をしたあとは、腱板の穴が糸とアンカーで塞がっている状態です。しかし、糸が切れたり、アンカーが抜けたり、はたまた、腱板が糸でちぎれたりすれば、穴が空いた状態に逆戻りです。そうならないように、ちゃんと腱板と骨がくっつくまでは、腱板に負担をかけたくないわけです。そのため手術後は肩を安静にするため、ほとんど動かさないで済むようにするために腕を軽く固定する必要があります。

軽症の腱板断裂の場合は三角巾で済むこともあります。それ以上の腱板断裂の場合は少しでも腱板を緩めてあげるために、脇に枕を挟むような形の装具を使います。腱板というのは完全に脇を閉じた状態より、脇が開いている状態のほうが緩みます。ですから、枕も大きければ大きい方が腱板の負荷は減りますが、日常生活における不便さは増しますので、重症度に応じて枕の大きさを決めています。
この装具は一般的には装具の業者よりまず全額負担で購入いただき、その後、診断書を元に保険負担分が戻るという仕組みになっています。
装具をつける期間は最も軽症で三角巾のみ3週間、最も重症で大きな枕付き装具を8週間としていて、その間で4週間の人もいれば、6週間の人もいるというような感じです。

腱板断裂の手術後:仕事を休む期間

肩関節鏡手術は手術後の痛みや回復の面でもメリットになるとお伝えしました。しかし、腱板断裂の手術後は関節鏡手術であっても比較的痛みが強い手術と言われており、また、術後も骨と腱板であるスジがしっかりとくっついてくれる必要がありますので、安静期間(3-8週間)やリハビリ期間(3-6ヶ月間)は長くなります。

仕事については、まず入院期間中は当然のことながらお休みが必要になります。入院期間は最短で2泊3日ですが、手術後の安静の方法の練習やリハビリ指導のために、だいたい手術後3日程度は入院していただいた方が安心とお伝えしています。退院後も痛みや安静状況と仕事内容を照らし合わせるように復帰時期を相談していくことになります。ほとんど肩を動かす必要がないデスクワークに限定されるのであれば、退院後、痛みや体調に応じて早期から復帰も可能ですが、力仕事など肩に負担がかかる作業になると3ヶ月以上、制限しないといけない可能性が高いです。

終わりに

腱板断裂についてよくいただくご質問を元に解説いたしました。
実際、ご自身の場合はどうなんだろう?ということが一番気になると思いますので、その場合は、一度、受診いただければと思います。お読みいただきありがとうございました。